もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

鼻毛

私は鼻毛をいつも切っている。

人より鼻の横幅が広い上に少し上向きなので、鼻の穴が見えやすいのだ。

見せるための鼻の穴と言ってもいい。とにかくサービス精神に溢れた鼻の穴を持っている。

しかし、どれだけ鼻の穴がエンターテイナー気質を持っていようとも、持ち主の私に無断で秘部をご開帳してもらっては困るのだ。

以前、こんなことがあった。

職場の飲み会から帰ってきて、酔いを醒まそうと洗面所に立った。

自分の赤ら顔が鏡に映る。

右の鼻の穴から、鼻毛が3本出ていた。

1本では無い。2本でも無い。3本である。

それがまるでオバケのQ太郎の頭頂部から出ている毛のように、それぞれ三方向てんでんばらばらの方向に伸びていた。

え、伸びたの? 数時間のうちに伸びたの? 朝から出てた?

今となっては真相はわからないが、とにかく鼻毛が出ていることは事実だったし

間違いなく飲み会の席から鼻毛は出ていたはずだ。

その鼻毛が三方向に3本飛び出したまま私は多くの人々と話をし、酒を飲み、偉そうに何やら主張していたはずだった。

後輩にあたる女性の同僚と話をしていた時には鼻毛は出ていたのだろうか。

彼女は私の鼻から3本飛びでた鼻毛を見て、何を思ったのだろうか。

あの日見た鼻毛の名前を僕達はまだ知らない。

私は無言で鼻毛を抜いた。痛かった。

それからというもの、私は鼻毛を常に切っている。

今では常に無毛状態を維持している。

汚れた東京の空気を、ダイレクトに鼻腔で受け止めている。

家を出る前には、妻に鼻の穴をチェックしてもらうこともある。

そんなとき妻はいつも私の鼻の穴を「ブラックホールのようだ」という。「吸い込まれそうだ」ともいう。

私の鼻の穴は今日もツルツルのまま、世間の風を吸い込んでいる。