もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

誰かの役には立っている

私は小売業に従事しているが、日々「お客様の声」というものを目にする機会がある。

当然良い声もあれば、悪い声もある。
お客様というのはよく見ているので、基本悪い声というのは非常に真実を突いている。

その中でも忘れられないのが、カーナビを購入したお客様の声だ。

その方は女性で、彼氏のためにカーナビを購入したのだという。
ドライブに行く時に、彼氏にそのカーナビをプレゼントしたら、とても喜んでもらえた。
ところが、装着して使い始めてみると、動作は不安定だし、ルート案内の精度も悪い。
だんだん彼氏もイライラしてきてしまい、お客様は自分のプレゼントしたもので車内の雰囲気は悪くなるし、
泣きたくなってしまった、こんな商品を売らないでほしい、というものだった。

その時の車内の空気を思うと、こちらまでしょぼんとしてしまう。
本当にごめんなさい、という思いしか出てこない。
その後二人の関係がどうなったのか知る術はないが、一台のカーナビの不具合が、カップルのドライブをぶち壊してしまう、という現実を知った。

反対のことももちろんあった。

まだ入社して間もない頃、研修の一環で接客を担当した際に、カジュアルなアクセサリーを販売していたことがある。
小さなダイヤが埋め込まれたネックレスで、買いやすい価格に設定されていた。
私のもとを訪れた中年男性が、会計を進めていると
「これ、母ちゃんとの結婚記念に送ろうと思ってさ」
と話しかけてくれた。
一瞬「え、これでいいのかな」と思ってしまったのが顔に出たのか、男性は
「だめかな?」
と心配そうな声になったので、慌てて
「いえいえ!喜ばれると思います!」
と言ったところ、
「いいよね、これ」
と男性は嬉しそうに笑った。

あの日買ってくれた小さなダイヤのネックレスが、二人の結婚記念日の思い出になってくれているとしたら、私は嬉しい。
どこかで、誰かの役には立てたのかもしれないな、と思っている。