もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

ポコニャン

ポコニャンをご存知だろうか。

アニメで見たことがある人もいらっしゃるかと思う。
90年代初頭にNHKで放送されていた。私も小学生の頃何度か見た記憶がある。

原作は藤子・F・不二雄の漫画である。
ドラえもんなどと比べるとやや年下、幼児向けの雑誌に連載されていた作品らしく
作品世界や全体の雰囲気は非常にドラえもんに似ていながら、独自の世界観がある。


ひょんなことからそのポコニャンに突然惹かれてしまった。

そもそもはだいぶ前、まだ妻と結婚する前だからもう7、8年前になるが
川崎市藤子・F・不二雄ミュージアムに行った際、そこに置かれていた原画を見たら
ポコニャンが無表情に「ポコニャン」と言っているだけのコマの原稿が展示されており、
それがやけに面白かったので、しばらく妻と無表情に「ポコニャン」という遊びが流行った。

ただ、それっきり私の中のポコニャンは消えていたはずだった。

それがつい先週、
「そういえば、ポコニャンってあったな」
といつものようにソファで寝転がっていたときに思い立ち検索したところ、
ずらずらと出てきた画像検索結果を見て
「こんなに可愛かったか!?」
と目が覚め、そのまま愛蔵版をポチってしまった。

なんと既に絶版になてしまっているらしく、中古でしか買えなかった。
ポコニャン!絶版!

ようやく手に入れたポコニャンはとてもよかった。

まず何よりドラえもんより対象年齢が低いからか、圧倒的にやさしい世界観が広がっている。
のび太的主人公・太郎はいるものの、のび太ほど欲望をむき出しにすることもなく、のび太ほど露骨に意地悪されたり、ダメなやつキャラでもない。
友達の間である程度のヒエラルキーはあるものの(ジャイアン的ガキ大将、スネ夫的嫌な奴も存在)概ね平衡が保たれており、
何より太郎の母親がのびママほどガミガミキャラではない。ちょっと天然なのか、叱ることはあっても太郎には比較的寛容に映る。

そして何より、ポコニャンがどこまでもいいやつである。
ドラえもんはときにはのび太に厳しく接するし、だからこそ友情も芽生えるみたいな部分もあるが、ポコニャンは言葉をしゃべらない
(全ての気持ちを「ポコニャン」で表現)こともあって、よりペット的な立ち位置である。
そして名前通り狸と猫のあいのこみたいな見た目に反して、性格はどこまでも太郎のために尽くす犬的な部分がある。

その生い立ちがほとんど語られないポコニャンの世界の中で唯一太郎ポコニャンとの出会いが語られるエピソードがあるのだが、
それが「5年ほど前、家族でハイキングに行ったときにポコニャンと出会い、拾って帰って育てた」という実にざっくりとしたものであった。
回想シーンで描かれるポコニャンは赤ちゃんらしく、四つん這いでなぜか「ミイ」と鳴いている。猫?しかも太郎は赤ちゃんポコニャン
哺乳瓶でミルクをあげて育てたらしい、かわいい。

そのためか、ポコニャンは太郎にめちゃめちゃ恩義を感じているのだ。

太郎が困れば惜しみなく不思議な力、便利な道具をどこからともなく持ち出して思う存分遊ばせてあげる。
時々太郎が調子に乗りすぎて痛い目に会うこともあるにはあるが、多くは楽しいだけで終わるし、痛い目にあうことも少ない。
ポコニャンと太郎が楽しんでおしまい、である。

なにこれ。
かわいくない? 
ポコニャン、かわいすぎない?

私が一番好きなエピソードは「魔の手がせまる!」というお話。

ポコニャンの不思議な力を聞きつけた怪しげなおっさんが太郎の家に来て、両親に大金を見せ、ポコニャンを譲ってほしいと頼む。
もちろんそれに応じない太郎父。
ポコニャンはうちの大事な家族です。なんと言われても断ります」
と追い払う。

ところがそんなある日太郎が空き地で野球の練習をしているうちにボールを見失い、探しているところに
「うちの彫刻品にボールが当たって壊れた」と訴えるおっさんが現れる。
どう見てもボールの方向とは違う方向なものの、おっさんは「この彫刻品は一千万円する。弁償しろ」と迫る。

困った太郎は両親に相談する。
あまりの高額に卒倒する両親。そんなところタイミングよく再びポコニャンを譲れと怪しげなおっさんが現れる。
「お金がいるんでしょ?」
と痛いところをついてくるが、太郎父は毅然と
「余計な御世話だ。たとえ家を売ってもポコニャンは売らない!」
と突き返す。
その様子を見たポコニャンは太郎が寝た夜、泣きながら「ポコニャン」とさよならをつぶやくと例の怪しげなおっさんの家まで旅立つ。

ところがそこでポコニャンは窓から彫刻品の弁償を迫ってきた男と怪しげなおっさんが一緒にいるのを目撃する。

「一千万円なんてできるわけないからな」
「俺が厳しく催促すればお前にポコニャンを売るしかないわけだ。この彫刻は夜店で買ってきた安物なんだ」
「大儲けしようぜ。ポコニャンを連れて世界中の劇場やテレビに出てやるんだ」
二人はつながっていたのである。

全てを悟ったポコニャンは超能力で壊れたライオンの彫刻を元に戻すと男二人をその彫刻に襲わせる。
「ひゃあ!化けた!」
と腰を抜かす悪党たち。

最後のコマでは太郎がいつのまにか空き家になったおっさんの家を見て
「あの人、引っ越しちゃったみたいだけど、もうお金いらないのかな」
と不思議そうにつぶやき、その横で「さあね」とでも言いたげに片目をつぶって
ポコニャン」というポコニャン、というシーンで終わる。

あまりにぐっときたので妻にも読んでもらったところ、やっぱりちょっと「ポコニャンいいやつじゃん」と涙声になっていた。
ポコニャンはどこまでもやさしく、どこまでも太郎のことを思っているのである。

ポコニャンと太郎たち家族全員との結びつきも見え、とてもいいエピソードだった。

ドラえもんほどメジャーではないし、作品数も小学館の全集全1巻で終わってしまうほど少ない「ポコニャン」だが、
ドラえもんにすら現実の「うまくいかない感じ」を思い出してしまうような精神状態のとき、
逃げ込める絶対的、母性的なやさしさにあふれた世界観を持つ癒しの場として実は読むべき作品なのではないかと思う。

心がささくれだちそうなときはポコニャンを読む。
ポコニャンヒーリングをこれからしていきたいと思っている。