もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

ホットサンド日和

ソロキャンプ。

 

一人でキャンプすることである。

アウトドアの趣味などないし、公園でレジャーシートを広げてお弁当でも食べよう、とピクニック気分で出かけても、ほんのちょっとレジャーシートの上に砂や土があると嫌な気分になるし、食べていたサンドイッチにでも虫が止まりそうになろうものなら

「だから外は嫌なんだよ!」

と吐き捨てる自信がある僕である。ソロキャンプなど別の世界の話、遠い海の向こうの国のおとぎ話とでも思っていたのだが、ここ最近急激にはまってしまった。

 

ソロキャンプにではない。ソロキャンプ動画にである。

 

 YouTubeというのは非常に興味深い僕の知らない世界をたくさん教えてくれる。

 

世の中には一人でキャンプに行き、その動画をわざわざ撮って、さらにわざわざ全世界に配信してくれる奇特な人がいるのである。インターネットに僕はいつも感謝している。中学生くらいのときに僕にインターネットがあれば。時々そんな夢想をしているが、もし仮にそうだったら今頃ただのヤベエ奴になっていた未来もなんとなく想像できるので、大人になってからきちんと出会えてよかったかなとも思う。

 

とにかくそんなソロキャンプ動画は僕を魅了した。

 

一般の人が一人で山や、渓谷に出かけ、静かな自然の中でただテントを設営し、持ってきた道具で夕食を作り、焚き火をし、眠る。朝はコーヒーを入れ、椅子に座ってゆっくりと流れる雲を眺める。周りには自分以外誰もいない。何もしない。何も起きない。

 

そんなソロキャンプ動画は荒んだ僕の心にすうっと入り込んできたのだ。

何これ。いい。いいじゃない。

使うあてもないのに、Amazonを何時間も見て、ソロキャンプ動画で出てきたアウトドアアイテムを探し、レビューを読み込み、お気に入りリストに入れ、リストの名前を「ソロキャンプ」と名付けた。もちろん買う予定はない。ただ時々そこを開いて、自分のソロキャンプを夢想するのだ。それはそれで楽しい。金のかからない性格でよかったと思う。

 

ソロキャンプの中でしばしば目にするのが、ホットサンドだ。

皆持ち手のついた小さな金属の板みたいなものに食パンと具材を挟み、上下から板を押し付けて固定して火にかざす。すると数分で外はカリカリ、中はトロトロあつあつの、めちゃくちゃ美味しそうなホットサンドが出来上がるのである。

 

これは食べたい。というか別に外じゃなくても、いい。家の中でいいからホットサンド食べたい。

 

そう思った僕は先日の日曜日、「ホットサンドつくるからお昼ご飯ホットサンドにしよう」と家族に提案し、近所のスーパーに食パンとハムと溶けるチーズを買いに行った。

ちょうどつい最近、流しの上の戸棚を整理した時に、自分でもすっかり忘れていたのだが、昔知り合いに貰った電気で作れるホットサンドメーカーがほとんど未使用で押し込まれていたのを発見したからだ。

 

娘と息子が特に期待もせず早くしてよといわんばかりの顔で待つなか、ただ一人工品しながら「今これからホットサンドっていうのつくるからな。うまいからな」と言いながら不器用に準備を始める父。

今考えると典型的な「普段料理とかしない父親が休日に気まぐれに料理してる図」なんだけど、この時はホットサンドを食べたい欲求に頭の中を支配されていた。

パンにバターを塗り、ハムを乗せ、溶けるチーズをのせる。途中で思い立ってマヨネーズもほんの少し入れた。

がちゃんと蓋を閉め、ほんの数分でかすかな煙と共に香ばしい香りが漂い始めた。

中からチーズが溶けるグツグツという音まで聞こえる。トースターとはまた違い、ダイレクトに嗅覚や聴覚にもまで訴えてくる。

 

そっと開けてみると、いい具合に四角がこんがりと焦げ、チーズが少し溶けてはみ出た、YouTubeの中で見たホットサンドがそこにはあった。

 

息子と娘に「熱いからな!チーズ気をつけてよ!」と言いながら分ける。

その割には「熱いうちに食べたほうがおいしいから!」と矛盾したことを言っていた。

 

外でもないし、機械で作ってるし、ソロキャンプのホットサンドとは全然違うのだけど、一口齧ったホットサンドから溶けたチーズがどろっと出てきて、熱いハムを噛み切り、口の中でマヨネーズとバターの溶け合った味が広がると、そんなことはどうでもいいな、と思った。ホットサンドはうまい。ホットサンドは正義。

 

子供達に

「おいしいだろ!」と強要すると

「うん、おいしー」と顔も見ずに言われてしまった。

 

僕は美味しかったと思うんだけど。

君は?