もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

膿を出す。

右手の中指が急に痛くなった。

見てみると、何だか少し赤く、そして腫れているようにも見える。

ぶつけた?はさんだ?どちらも覚えがない。

痛痒いというか、悪質な虫刺されみたいな感覚だった。
とはいえ、大事ではないと勝手に判断し、そのままにしておいた。

それから数日後である。

痛い。見ると指がパンパンに腫れている。
なんかこう、身がプリプリに入ったウインナーみたいな膨れ具合で、何だか表面もツヤッツヤである。

さらに爪の端っこがなぜか緑色になっているのである。

グロい。なにこのグロさ。


ところがここに及んでも僕はまだまあ治るでしょこういうのは、と放置した。
実際同じような状態になったときは、そのまま治ったことがあったような気がしたのだ。

それからさらに数日。

緑色部分が侵食してきて、爪の端っこがついによもぎ餅みたいな色になってしまった。
指は晴れ上がり、ちょっとでもそこにものが当たろうものなら飛び上がりそうになるほど痛い。

これはおかしい。これはダメだ、と検索することにした。

しかし、なんと検索する?

ダメ元で

「指先 緑色」

と検索してみたら、笑っちゃうくらいいっぱい検索結果が出てきて、中でもYahoo!知恵袋でちょっとずつ違う聞き方で、同じ症状を別々の人が何年かおきに質問していて、かつて自分と同じ道をたどった人がこんなにいたんだ、と全国に同志を得た気持ちで大変心強かった。

どうも「ひょう疽」というもので、爪先の傷から雑菌が入り、それによって膿がたまっている状態で、放っておいても完治しない、むしろ悪化する、ということがわかったので、早速皮膚科に行った。

医者は「今日はどうしました?」と聞いて、僕が「実は…」と指を前に差し出した時点で「あー。はいはい」と医療用の針を取り出した。
おそらく無数にやってきた処置なのだろう。

「ささくれからばい菌が入ると中で菌が繁殖して膿が出るんですね。膿をこれから針で穴開けて出しますが、穴を開けるのは痛くないので大丈夫ですよー」

と言ってくれたが怖いものは怖い。

僕は先生に指先をそっと預けて、まるでダンス相手に手を重ねるお姫様みたいな格好で緊張して待った。
針を結構な勢いで指先に突き立てる先生。プツッと皮膚が裂ける。そのまま先生がぐいっと腫れている指先を押した。激痛。
穴からはぶちゅ、という感じで黄緑色の膿が出てきた。まるで抹茶クリームのようである。
先生が「ほらね」というがこちらは痛みと「何がほらねなんだよ」という思いから「うわあ」としか言えなかった。
その後もなんども指を押す先生。もちろん処置だからしょうがないのだが、拷問か、というくらい痛い。その度に出てくる膿。

よく不祥事を行った団体が謝罪する際、「膿を出しきる」という表現を使うが、ようやく身に染みてわかった。
膿を出すのは、辛い。だが、膿を出さねば確実に症状は悪化する。そして、膿を出した後、症状は劇的に改善する。

ぎゅーぎゅー押されてじんじんと痛む指にばんそうこうを巻きつけると、
「はい、いいですよ。あと抗菌剤出しておくんで飲んでください。お大事にー」
と処置は終了した。感覚的には3分もかかっていない。

そして今、僕の指はすっかり元に戻っている。穴を開けたところは皮膚がすっかり死んでしまったのか、パリパリの玉ねぎの皮みたいに剥がれて、下に新しい皮膚ができつつある。