チョイス
オリジン弁当にお昼ご飯を買いに行った。
その日僕はどうしてもCMで見た「とり天丼」というのが食べたい、と思っていたからだ。
甘辛いタレが染み込んだとり天をあつあつのご飯と一緒に頬張る。
そんな様子を思い描いてうきうきしながら意気揚々とオリジン弁当に行き
迷わずレジの前に立つ。
「ご注文おうかがいします」
とややクセのある感じの、高畑淳子みたいなおばさん店員が前に立つ。
そこで僕は気がついてしまった。
しまった、あのCMはhot mottoのCMだった、と。
一瞬にして頭が真っ白になった僕はここで悩んではいけない、と焦った末、なぜか
「豚トロ丼」
と口走った。
進む会計。戻らないメンタル。しまった、僕は今日とり天丼を食べたい気持ちだったのに。
とり天丼の口になっていたのに。なんでhotto mottoのCMだと認識していたのに自分はオリジン弁当に来てしまったのか。
このあたりの思考回路のバグ具合は自分でも怖い。
しかしまあ、オリジンの豚トロ丼は嫌いじゃないし、美味しければなんでもいいじゃん…と言い聞かせてベンチに座って待つことにした。
ランチタイムのオリジンには次から次へとお客さんがやってくる。
皆オリジンに来たくて、オリジン弁当を食べたくて来ている人ばかりだろう。
自信を持って食べたいものを注文している。
その様子を見ていると、豚トロ丼に自信がなくなってきた。
僕の次に来た作業着姿のおじさんは
「唐揚げ弁当 大盛りで」
という実にシンプルながら力強いチョイスをしていた。
ああ、それはあるよなあ、ありだよなあ、と頭の中が唐揚げに支配される。
大盛りは食べきれないにせよ、唐揚げを無性にたくさん食べたくなる時がある。あれは何なのだろう。唐揚げ欲に支配される時。
その次の線の細そうなお兄さんは
「タルタルのり明太弁当」
と見た目に反してカロリー多めのがっつり弁当をチョイス。
あー、それもねー定番だけどいいよねえ。と今度は頭の中がタルタルのり明太になる。
最初の「とり天丼」を奪われた段階で僕のお昼ゴハンを決めるための脳の中枢神経は軸を失って不安定なので、人の意見に左右されまくっている。
参った。このままでは豚トロ丼を食べて後悔してしまうのではないか?
あと何度食べられるかわからないお昼ゴハンで、自分は本意ではないものを食べていいのだろうか?
そんな葛藤を続けるうちに「豚トロ丼のお客様あ」と高畑に呼ばれたので取りに行く。
そして、出来立ての豚トロ丼を食べたら案の定美味しくて、そんな葛藤などどうでもよくなってしまった。
とり天丼は、今度食おう。