もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

松井五郎の作詞添削講座ってまだやってます?

■この間子供連れて近所の公園行ったんですよ。で、砂場で遊びたいって言うから砂場行ったんですね。

比較的空いてて、俺たち以外には子供を連れた男親が2組。

男親ってのはママさんたちと違って基本的に子供を連れていてもあまり交流というのは無い。稀に人懐こい感じの「お前絶対営業だろ」って繋がり大事・出会いに感謝!って感じのおしゃべり野郎がいるが、基本的には殺伐としている。男は互いに牽制しあって子供たちを遊ばせているのだ。

そのうち、2組いるうちの男親Aの元へ嫁がやってきた。はじめのうちは親しげに喋っており、子供にも甘い感じの声を出していたので気に求めてなかったのだが、いきなり急変。

 

「ねえ、これなんで砂まみれになってんの?」

 

辺りはシーンですよ。

俺も、もう一人の男親Bも、あのママ特有の、これから指摘しますよ?って時の「ねえ」には敏感なもんだから、もう耳がピーンっと立ちましたね。それはまるで、野良猫が自分を捕まえんとする敵を察知した時のように、スタンドバイミーでゴーディが線路に触れて「汽車だーっ!」と叫んだ時のように、フラグがビシッと立ってた。

どうも子供の飲んでたペットボトルの蓋に砂が付いていた模様。子供は見たところ3歳前後。確かになんでもポロポロ落とす年頃である。しゃーないじゃないの。とは言えないのである。

 

夫「あ、それ落としちゃったのかな」

妻「洗ってきてよ。なんで気がつかないの?」

 

ゴングがカーンって鳴りましたよね。いやー、見たくないなーこの雰囲気。まさか昼下がりの砂場でこんな惨劇が目の前で始まっちゃうとは。かぶりつきですよ。近い近い。何ここ実況席?

俺と男親Bはその場にいないフリで完全に存在消してた。マジ空気。俺は今酸素になった。風と大地と一体化した。俺は風。千の風

その後も子供が裸足で砂場に入っているのを見てなんで靴を脱がせたのかだのなんやかんやと言い始め、男親の方は初めは笑い混じりに応戦していたものの、次第に笑いの割合が消え、声のトーンも低くなって行く。フーッ他人様の夫婦の喧嘩はキクーッ!明日は我が身って感じで最高の刺激っすね。

で、口うるさい嫁に散々いびられてイヤんなっちゃった親父は

 

「ママ来るとうるせえな~なあ〇〇!」

 

といちいち子供に同意取り始めて、確かに嫁のいびり具合もうるせえけど、お前も子供に夫婦の小競り合いの展開委ねてうるせえからお似合いだよ、と思った。子供が親父を完全シカトして黙々とお城を作ってたのが救いだった。いいぞ。これが本当の砂の器。ROCK。

めんどくさいししんどいから、聞いてないふりしたまま近くでバドミントンやってるジジイとババアを見てた。夫婦なのか、長く連れ添った二人だけに通じる雰囲気が感じられてこれが夫婦の余裕だなって思った。ジジイもババアも年取りすぎてどっちがジジイなんだかババアなんだかわかんなくなってたけど。

俺やあんたら夫婦があのジジババの域に達するまでにはまだまだ道のりは遠いから頑張ろうぜ、って勝手に思ってた。

空は超晴れてて青かった。

 

■商談中にスマホに着信。

見たことない番号。で、最近のiPhoneって市外局番から大体の地名出すじゃないですか。出なかったらごめんね。俺の出るのよ。

それが九州地方なわけ。親族もいるし、取引先も何社も九州地方にはいるから、まあ登録はしてないけど同席してる人に断って電話出たわけ。「もしもし」

 

「●●さんの携帯ですか?私、●●署の者ですが、交通事故の件でお電話しました」

 

知らないことだらけ。知らない名前、警察、交通事故。嫌なニオイしかしない。

 

「え、いや、違いますけど…」

 

この時点で俺は足りない脳みそをフル回転させた。一つ、俺の携帯番号を誰かが不正に利用している、二つ、今電話をかけてきている奴が何らかの詐欺である。

交通事故にあったからお金が必要だ、は今や振り込め詐欺ではオールドスクールどころかクラシックである。母さん助けて詐欺ってそういえば誰か使ってる?使ってないね?じゃ、話続けるけど。

 

「あーそうなんですね。あのー、こちらの番号は●●●ー●●●●ー●●●●でお間違い無いでしょうか?」

 

かなり訛りが強い警察の人は俺の携帯の番号を言った。もちろん俺の名前とは違うし、交通事故にここ最近関係した覚えもない。30年近く前に轢かれたことはあるが。

 

「はい、私の番号ですけど」

 

「あー、じゃあこちらが番号を聞き間違えたのかもしれません。すみませんが、上のお名前だけ教えていただけないでしょうか?」

 

何でだよ。って思った。正直。

個人情報取られんのか?とか一瞬頭を過ぎったが結局偽名ではなく本名を名乗る。

 

「●●の方では無いですよね?」

 

と九州地方の県名を出されたので、

「いえ、私は東京で働いてますので…」と「東京」のところを強調して答えた。「TOKYO」って言っていたかもしれない。

 

「そうですか。大変失礼しました。もう今後電話はしませんので」

 

と言って電話は切れた。

 

世の中ではいつも事件が起きている。

俺の携帯の番号とそっくりな誰かが、日本のどっかで今日交通事故で大変な目にあっている。

被害者なのか、加害者なのかわからないけど。警察に電話をされる立場になっているのだ。

落ち着かない気持ちのまま商談に戻った。早く解決するといいな、と思った。