もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

恥ずかしいね、それでマウント取ってるつもり?

サイゼリヤでマニュアルに縛られない年配の女性従業員と常連らしい杖をついた後期高齢者のやりとりを見た。従業員はまずごめんねえ待たせちゃってえ、大変だったねえ、とまるで子供にでも話すかのような口調で語りかけ、天気の話題から身体の具合にスムーズに話題を移し、いつものメニューでいいか確認してから今日は混んでいるから少し時間かかるよ、と伝えていた。今の日本が凝縮されてるような光景で、俺は本場の味イタリアンコーヒーをあなたに、と書かれているドリップマシンでアメリカンと書かれたボタンを押して出てきた薄いのに苦いコーヒーを読みながらドープ、と呟いた。ランチメニューの鶏肉の甘酢あんかけは熱すぎて唇に貼り付いた鶏の皮で火傷をした。外に出ると佐川急便の制服を着た二人組を見かけた。一人は明るい髪色の若い女性でもう一人は黒い髪のメガネをかけた真面目そうな若い男性。やりとりから、女性が先輩であり仕事を教えながら一緒に配達をしているところのようだった。女性が点滅し始めた信号を指差して「あの信号を渡るんだっ」と走り始めそれに倣うように男性も走り出した。その全てが生命力に満ち溢れていて彼らが走り去った後には光り輝く粒子が舞っているようで俺は目眩がしそうだった。室内で陰気な顔をして一日中パソコンをかちゃかちゃ叩いている俺よりよっぽど「労働」をしている、と言う気がして何だか恥ずかしくなって下を向いて横を通り過ぎた。街は昼下がりの強い日差しに突き刺され、白く発光する歩道に誰の視線も通り過ぎるはずの俺の身体が濃い影を落とした。