もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

輝き 無駄の中に。

今村夏子の新しい作品が出ていることをTwitterで知ったのでKindleで買った。というかまた芥川賞の候補になっていると言うニュースで知ったくらいなので、好きと言うのが憚られる程度のファン具合なのだが。とは言え、好きな作家の作品を読むと言うのは読書に対する情熱が失われつつある中でも胸を動かしてくれる数少ない体験だと思う。Kindleで買ったのは少しでも家に本を増やさない為でそれはそれで合理的だがなんというか情緒が全くないなと思った。本が好きで本屋が好きだが三月に引っ越して来た実家の周辺には本屋が一軒もない。全て潰れてしまった。俺が子供の頃は家の目の前、商店街の角、小学校の前、国道沿いと少なくとも歩いて10分圏内に四軒あって、はしごしては少ない小遣いで立ち読みで粘って選んだ文庫本を買うのが好きだった。作品を一つ読み終わるたびに親指と人差し指でつまんだページを意味もなく何度か掴み直して紙の質感を確かめたり開いたページを顔の近くに持って行ってにおいを嗅いだり読書は俺にとって視覚情報だけでなく触覚や嗅覚も重要な体験の一つだったんだなと思う。Kindleは気軽で便利で優秀だが、無駄がなくてつまらない。そもそも読書なんて無駄なものなのに。一編読み終わるごとに俺の指先がやり場を見失ってそわそわしているのがわかる。隣の席の肩幅のやけに広いスーツの男はiPadでわざわざソシャゲをやり込んでいて、こいつよりはマシな無駄かも知れないなと思った。