もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

象は静かに座っている

渋谷のイメージフォーラムという映画館で上映されていた「象は静かに座っている」という映画を観に行った。
上映時間およそ4時間。
一人で4時間近くの映画を見るという体験が今まで無かったので、緊張した。トイレが近いので通路側の席を取った。しかもここ最近咳が止まらず、喘息気味のためマスク着用の上、のど飴をしっかりと購入し、ドリンクホルダーには地元の駅で買っておいたいろはすもセット。万全の状態で備えた。

淡い色彩。主軸となる人物、それも顔を中心に焦点があった映像が終始続く。
やたらと歩くシーンも多く、その多くが登場人物たちの背後から捉えたカット。
音楽も台詞も無く、ただただ演技とも記録とも取れないような断片のシーンが繋ぎ合わされる。
軸となる人物以外焦点が合わないままの世界は、そのまま社会と登場人物たちとの相入れない溝にも見える。見る側は彼らを通してしか物語の世界を見ることは出来ず、その世界は歪んでぼやけているし、その分閉塞感に満ちて陰鬱で重苦しい世界を彼らと共有することになる。
室内は基本電気はついておらず、外の世界は常に薄暗く曇り、作品世界は冬で寒く、登場人物たちの吐く息は白い。登場する建物は皆古びて汚らしく、鄙びていてみすぼらしい。
その荒涼とした視界はそのまま登場人物4人の心のうちを表現しているようにも見える。
彼らの周りには常に死がつきまとい、命は簡単に失われていく。生死がさほど大きな問題でもないように扱われ、淡々と日々が過ぎていくことを受け入れていく。暴力、不条理、貧困。
抑制された空間の中で次第に表情を失っていた登場人物たちに感情の発露があり、爆発する。
その感情の行く先は見ている限り決して前向きなものでも無いし、行き場が示唆されるわけでもない。何か希望のようなものを求めているようで、結果的にはどこにも行けないし、何かが変わるわけでもない、と言うことを彼らは分かっているようにも見える。最後も唐突に放り出されるように終わり、開きかけた扉を目の前で閉ざされた気分になった。だけど、実際の人生は大体そんなものだし、俺たちはそれもよくわかっている。