もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

親知らずを抜く日

■また新しいキーボードを買った。

俺はいつもスマホで文章を書いているので、ワイヤレスのキーボードを買ってある程度の長さがある文章書くのを乗り切っている。

新しいキーボードを買う度に新しい文章が書けるような気がする。

子供が新しい鉛筆を買ったら字が上達するのではないかと思うように。

 

 

 

■ 会社を休む。

いつもと違う時間帯の街、電車、カフェ。

普段見かけないタイプの人たちがそこにいる。みんな今ここにいるのはどうしてで、ここからどこに行くかなんて知らない。言葉を交わすこともない。ほんの一瞬同じ空間にいて同じ時間を過ごすだけ。

俺はこれから歯医者に行って親知らずを抜く。格好つかねえな。

 


■親知らずを抜いた。

抜いた歯をまじまじと見ていたら持って帰るかと聞かれたのでもらって帰ってきた。自分の一部だ。もらって帰っても誰にも文句は言われない。銀歯は被せてあるし、奥の方は黒く、虫歯になりかかっていたようだ。自分の肉体から無理やり位引っこ抜いたそれは、ついさっきまで生きた身体の一部だったが、今は骨の欠片に過ぎない。俺の親知らずは上に生えていた割には珍しくさきっぽがくいっと曲がっていたらしい。歯医者は少々抜きにくかったようだ。引き抜かれた親知らずは夕方のニュースで紹介されそうな「ど根性ダイコン」みたいな形をしていて、歯根の部分が妙にひん曲がっている。まるで楽しそうにダンスしてるみたいだ俺の親知らずは歯の奥で34年間楽しそうに、ダンスをするみたいに生えていた。そんな風に思うと、俺はこの骨の欠片が、俺のどうしようもない34年間を一緒に生きてくれたこの一部が、少しは愛おしく感じた。けれど、ほかに使い道も無いのでそのうち捨てます。