もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

はじめて

息子が剣道を始めたい、と言い出したので、近所の剣道教室に見学に行った。

しかも見学だけのつもりで行ったところ、「せっかくですし、どうぞ!」とご親切に竹刀まで貸していただき

たっぷりと指導していただいてしまった。

正直なところ僕に似てそれほど運動神経もよくなさそうだし、根性もそんななさそうだし、大丈夫かなーなんて思っていたら

最後まで練習に参加し、帰りに「どうする?続けられそう?」と聞いてみると

「剣道って面白いね」

などと真顔で言い出し、帰り道には「めーん!どーう!こてー!」などと路上で叫び出す始末。やめて、うるさいから。

とはいえ、こんなことを息子が言い出すようになるなんて、お父さん泣いちゃう、という感じである



実は僕も息子と同い年くらいの頃に剣道教室に母親に無理矢理連れて行かれ、見学したことがあるのだが、

とにかく運動が嫌いな上に、集団で素振りしたり、足でだーんっと体育館を踏むその音のデカさに恐れをなした僕は

「絶対やらない」と言い張って剣道を始めなかったのだ。

いつまで続くかなんて今はわからないが、はじめの一歩を踏み出しただけでも、息子の方がマシである。とりあえず、たくさん褒めた。


先週末、映画にもはじめて息子と二人で行ってみた。

朝から妹と喧嘩ばかりしているので、たまには引き離して別々で遊びに行ってみようと思ったのだ。

巻き込んで悪かったけど、妻には妹お任せし、僕は息子と二人でポケモンの映画を近所のショッピングモールに入っているTOHOシネマズに見に行くことにした。

息子にとってははじめての映画である。そもそも「映画館ってなに?」からのスタートだ。

彼にとっては生まれた時からテレビどころかスマホでなんでも観れる世代。

テレビだって「CM飛ばして!」と言うデジタルネイティブが、2時間近く座って1本の作品を観れるのだろうか…と不安だった僕は、
とりあえずおしっこだけでもすぐに行けるように端っこの席をとった。

少しでも映画にポジティブなイメージを持ってもらうため、映画が始まる前に映画館の紹介ツアーをした。

「ここが売店だよ。ここでは映画にまつわるグッズが買えるんだ」
「へえー」
「で、ここが食べ物とか飲み物とかが買えるとこね。映画を観るときはポップコーンとコーラを買うっていう決まりがあるから、買って一緒に食べようね」
「へえー」
と嘘を教えつつ、館内に入った。

開始してしばらくはすぐにおしっこ、と言い出すのではないか、映画を見ながら独り言で大きい声出すんじゃないか、などと気にしていたものの、全て杞憂に終わった。

映画の展開にあっという間に引き込まれ、脇目も振らずスクリーンの方向だけを一点集中して見続けてくれていた。

しかも子供の頃からゲーム機を買ってもらえず全くポケモンを知らない僕までも、終盤の胸熱展開に思わず本当に泣いてしまうという珍事もひっそり起きていたのだが、それは息子にも、館内の他の大人にも内緒なのである。

映画館を出るとき息子のコーラを確認すると、ほとんど飲んでいない。

「あれ?あんまり飲んでないね」

というと、

「おしっこしたくなると思って…」

などと殊勝なことを言うので、おまえ〜と思わずぐりぐりしてしまった。

できることが少しずつ増えていって、はじめてがこれからたくさん息子にはあるのだと思うと、不安と期待が混じって、とても変な気持ちになっていた頃を思い出す。

僕もそんな息子のはじめてに、少しでも立ち会えて、その時の気持ちを一緒に共有できるようにしたい。

それが、自分の父親としてできることだと思っている。