もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

ピースができた日

娘がピース出来るようになった。

「さーちゃん、ピース出来るようになったんだよ!」
と鼻息荒く突進してきたので手を見ると、確かに少し不恰好ではあるものの、人差し指と中指が二本、きちんと立っていた。

「すごいじゃん!写真を撮るときはこれやろうね」
と言うと嬉しそうだ。顔の横にピースをくっつけて、お得意の顔をくしゃくしゃにした笑顔を浮かべている。

妻に聞いたら、ずっと練習していたらしい。
私が会社に行き、息子を幼稚園に送った後、数時間は妻と娘の二人だけの時間が毎日あるわけだが、その時間の間、娘が一人真剣に何かをしていたので見てみると、自分の指と格闘しながら一生懸命ピースの作り方を考えていたそうだ。

「私はずっとさーちゃんの努力を見てたよ」

と妻がぽつりと言う。娘も満足げだった。

 

今日会社から帰ると
「これも出来るようになった!」
と三本指を立てて見せてきた。
「これで何歳?って聞かれたら指で出せるね!」
いくつ?と聞かれると、3歳と答えられるものの、指で三が作れなかった。ピースをマスターした今、指の筋肉の使い方をマスターしたのか、二本指から三本指への移行は非常に早かった。息子が隣で
「でもこれはできないでしょ!5歳の5!」
と言ってパーにした手のひらを出した。
娘はしばらく俯いて手をいじいじしてから「できない…」と言うので
「いや、3歳より簡単でしょ!パーするだけだよ!」
と思わずつっこむと
「あ、そか」
とえへへと言いながら指をパーにして出した。最近娘は「もしかしてこいつ、わかっててわざとボケてんのかな?」ということもあるので、あなどれない。

皿洗いをしているときに交互に話しかけてくるのでやかましい。
息子は最近将来の話を突然し始めるようになった。
「俺が大人になったらさ、一人暮らししてさ、大きい家に住むんだよ。この家はボロボロだからさ」
大きいお世話である。賃貸だというの、壁に穴を開けた奴はどこのどいつだ。反抗期の中学生か。
「それでさ、そしたら扉は青にするんだ。時計も青、あとキッチンも青」
「さーちゃんはピンク!」
娘が割り込んでくる。
「カーテンも青で、お風呂も青」
「さーちゃんはね、あのね」
「テレビも青!洗面所も青!」
「さーちゃんが言いたかったのに、うあーっ!!」
まだ言葉の量では2歳年上の兄には追いつかない。言いたいことはいっぱいあるのに、口に出す言葉が付いていかないもどかしさから、こうした会話で兄に言い負かされてしまう度に娘は泣く。泣くというか、叫ぶ。
意地悪な兄は妹が泣いても続ける。
「あとDVDも青!」
もはや目に入るものをただ言っているだけだが、妹をからかうためだけの言葉なので、もはや当初の「将来住みたい家」の話はどうでもよくなっている。
「うあーっ!!お兄ちゃんが意地悪するからー!」
娘ももはやなにがなんだかである。私は皿を洗い続けている。

しばらくして落ち着いたら今度は息子が
「なんでパパはお酒を飲むの?」
と聞いてくるので
「大人になったら飲みたくなるよ」
と言うと
「俺も?」
と聞くので
「そうだよ。大きくなったら一緒に飲もうよ」
と言うと
「やきとり食べる?」
と言ってきたので笑ってしまった。
「そうだね。やきとり食べながらお酒飲もうよ。パパ、ビール好きだからビールとやきとりね」
と言った。
「いいねいいね!」
と息子も嬉しそうだった。
「じゃあ待ち合わせして飲みに行こうよ、パパ駅前にいるから」
「駅前?いいよ、じゃあ俺迎えに行くから」
「うん、駅前で待ち合わせて飲みに行こう」
「約束したからね!」
そう言って「ママー!パパとお酒飲む約束したよー!」と伝えに行ってしまった。

毎日どうしようもないくらい辛いこともあったりするけど
こうしたなんでもないようなこどもとのやりとりで、いつも私は救われた気になる。
家族がいてくれてよかった、と本当に思う。
いつか、息子とやきとりとビールを飲める日を、私は楽しみにしている。