もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

写真

未だに実家に戻るたびに昔の僕の写真を渡される。

家財の整理をするのはいいことだが、どうして写真があとからあとから発掘されるのか、謎である。

先日も「持って帰ってほしい」と言われたのは小学五年生のときに家族で行った銚子で、なぜか観光案内板に向かって僕が指を指している、という謎を通り越して恐怖すら感じる「なぜ?」が満載の構図の写真を渡された。五年生の僕は肥満児であり、顔はなぜか満足げで、パツパツの体に近所の西友で母親が買ったと思われる「adidas」と書かれたTシャツを着ていた。怖。

「いや、まだあんのよ」

とどっさり出てくる懐かし写真たち。目眩を抑えつつ見ていくと、小学校の運動会で組み体操をしている僕、
高校生の頃のニキビだらけの僕、大学生の時の史上最高に太っていた頃の僕と、まあ思い出したくない過去ばかりを集めたベストアルバムみたいな写真をわざとピックアップしたんですか、と聞きたくなるような写真ばかり。
しかもそれらをご丁寧に母親はピーターラビットの可愛らしいイラストがプリントされた、写真屋さんでタダでもらった紙製のアルバムにおさめてくれているのだから、もう実家感120%、匂い立つ実家臭にリバース寸前である。

高校生の僕は毎朝30分かけて逆立てていた爆発後みたいなトサカ頭に緑色のセルフレームメガネという「どこのローカルタレント?」という風貌の上に全く自分でも覚えがないのだけど真っ赤なジャージみたいな服を着ている。よく見ると胸元には銀色の十字架みたいなペンダントをしていて、なんかもう全体的に「殺してくれーッ」という感じだ。
大学生になってまともになったかと思えば、これが拍車がかかっており、太った上に典型的な大学デビューしたい奴がやる、品のない金髪にしていて、その上当時流行っていたソフトモヒカン、さらには極太の黒いフレームのメガネをかけて眉毛は虫の足のように細く、あごひげまで生やし始めとどめにピアスなんかも開けていて、とにかくもう「何者でもないやつが何者かであろうとふるまうときのテンプレ」みたいだった。もう無理。俺をいじめないで。これ以上、俺のことをいじめないで…。

僕が自分の過去を強制的に見せつけられてぐったりしていると、追い打ちをかけるように母親が言った。

「あんたの後ろのクローゼットのその棚のとこ、全部写真だからね。まだあんのよ、写真」

どんだけ撮ってんだよ。個展でも出すつもりだったのか。もう捨てろよ。