もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

車の運転

車の運転が下手である。

あっちを擦り、こっちをぶつけ、3年前に新車で買った車は、不憫なことにぼろぼろになってしまった。
つい先日ももう何百回も通っているはずの家の駐車場を出てすぐの電柱に思いっきり左側面を
「ガリガリガリ!」
と猫のマーキングのようにこすりつけてしまい、あとで降りて見てみたら、電柱には黒と黄色のシマシマの保護テープが
巻いてあったものだから、車体にも黒と黄色の模様がついてしまっていた。わあ、くまのプーさんのティガーみたい!と
ポジティブに捉えられる心が欲しかった。現実の私はその跡をそっと撫でたあとに「あーっ!!」と咆哮した。


下手は下手なりに、他人に迷惑をかけないよう、事故を起こさないように慎重に運転はしているつもりなので
今のところ擦っているのもぶつけているも他人に影響の出ない自損事故(というほどのものでもないかもしれませんが)で済んでいる。
これだけでも私は十分「お前はよくやっている」といってやりたいくらいだ。

もともと小さいころから乗り物酔いに弱く、父親の運転する車に乗ると、1時間以上乗らなければならない時には絶対に酔ったし、
そのうちの何回かは実際に吐いた。
吐かないときでも必ず途中で一回車をどこかに停めてもらって飲み物を飲んだりする休憩を入れてもらったし、
ひどいのは電車にも酔ってしまうので、祖父母の家に電車で行く時は気持ち悪くなるたびに電車を降りて、一駅ずつ進むみたいなときもあった。
今思うとすごろくみたいな行き方である。「一回休む」が何回も出てしまっているが。
祖父母の家は大田区の方にあったので、乗り換えで当時はまだ「目蒲線」と呼ばれていた電車に蒲田で乗り換えていたのだけど
この蒲田に着くころが吐き気のピークで、蒲田で吐き気を必死にこらえていたので、未だに蒲田にいいイメージがない。蒲田の方が読んでいらっしゃったら、
誠に申し訳ない。

不思議と自分が運転する分には緊張もあってか、何時間運転していても気持ち悪くなることはなく、
今のところ二人の子供達も私が子供のころにしょっちゅう気持ち悪くなっていたほど車酔いをしている様子は見受けられない。
ここは妻の方に似てくれたようで、本当に助かった。子供のころの私のペースで酔われていたら、正直どこにも行けない状態だっただろう。

大人になって多少は乗り物にも強くなったのか、電車に長時間乗ろうが飛行機に乗ろうが、気持ち悪くなることはなくなった。
ただ、未だに他人が運転する車に乗ると、場合によっては気持ち悪くなる。

バスやタクシーと言ったプロが運転する車は大丈夫なのだが、一般ドライバーは運転の癖みたいなものが人それぞれにある。
そのため、「運転がうまい人」と「運転が雑な人」が存在するのも事実だ。

例えば義父。
運転は早いのだが、発車と停車が少し、荒い。
そのため、毎回ぐっと乗っている方は体が前に出る形になるのだ。
短い距離ならいいのだが、これが続くと積み重なってつらい。

年末年始に妻と子供を連れて遊びに行くと、必ず最寄りの空港まで送迎をしてくれて、これがめちゃくちゃありがたいのだが、
約1時間の道のりをこんな調子で急発進急停車の繰り返しでぶっ飛ばしてくれるので、
「うぷっ…」「うぷっ…」
となりながら我慢する1時間。これほど1時間が長いとは。
顔が真っ青になりながら車内を確認すると、義母も妻も昔からこの運転に慣れてきているせいか、全く動じておらず、子供達も気にしていない。
私だけなのである。同意の求められない車酔い。これはつらい。空港に着くころにはもう「喋ったらプチゲロ出ちゃう」状態であった。

仕事の関係で取引先の営業車に乗せてもらうことも少なくない。
その場合、営業マンごとに運転の仕方にもやはり色が出る。
慎重な運転の人、荒い人、スピードを出す人…
「車の運転はその人の生き方が出る」
みたいな話を聞いたことがあるが、本当にある意味そうそう間違ってないな、という感じである。

私が乗せてもらって、一番運転がうまい、と思った人がいて、その人は発車、停車もスムーズでありながらスピードを出すので早く、
かといって運転が荒いわけでもなく、きちんと道を譲ったり対向ドライバーに会釈を送ったりと交通マナーも非常によい。
しかし見ていると私と会話をしながらもくまなく周囲を見渡してスムーズに車線変更を繰り返したり、
狭いスペースでも一発で駐車したりしていて、要は「運転がうまい」のである。そして、彼は仕事もできる人間なのだ。

私はある時、言った。
「運転、うまいですよね」

彼は嬉しかったのか、顔を綻ばせながら言った。

「そうでしょう?運転うまい人ってね、エッチもうまいんですよ!」

そう言って彼はアハハ!と笑った。
確かに、この人は車の運転のように人生を上手に進んでいくのだろう、となんとなく私は思った。