もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

レイテストナンバー

toeというバンドのレイテストナンバーという曲を聴きながら低く垂れ込めた曇天の中を走る電車に乗ってたんだが、荒川を渡る橋の上を通過中、遠くに雲に突き刺さっているスカイツリーとゴミ処理場の高い煙突が見えて、曲の効果もあって世界の終わりが来たみたいな気分になってしまった。

 

車両に人は少なく、向かいの座席に座っているメガネの青年は本格的に眠り始めたらしく、膝にリュックを抱えたままだんだん前のめりに倒れ込み始めている。隣の席の若い男はスマホを一心に見つめていて、青年の上半身の急射角具合には気がついていない様子だ。

 

不思議な曲で、悲しみなのか寂しさなのか慈しみなのか切なさなのか悔恨なのか諦念なのか、あるいはそれらの感情が入り混じる一瞬の心の揺らぎなのか、そういったものが音像になって淡々と繰り返されている。俺はそれをAmazonで買った安物のワイヤレスブルートゥースイヤホンという最悪の環境で聞いているのだけど、音楽には間違いがないので、8割くらいは俺にも正しく伝わっているとは思うんだけど。もちろん最高の聴取環境で聞かせてもらったところで、俺の貧弱な耳が全てを受け止めてさらに深く感動出来るのか、というと極めて微妙なところなので、結局これくらいの聴き方が俺にはよく似合っているのだと思う。

 

メガネの青年は今や完全に前方へ倒れ込んでしまい、リュックを自分の胸と腹の辺りで押しつぶしてしまっている。膝と彼の上半身は今や一体化し、つむじが俺からはよく見える。隣の男が降りる。車両にほとんど乗客の姿はない。俺と倒れ込んだまま眠り続ける青年を乗せて電車は走る。レイテストナンバーが鼓膜を叩く。