もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

あじさいさがし

梅雨に入り、土日も雨続きで外出するのが億劫になった。大人だけならまだしもまだ小さな子供を二人も連れてだと子供はおろか大人も体力的精神的に不衛生だ。2週連続で1日家で過ごしてしまうのもお互いフラストレーションが溜まるもので、兄と妹の殴り合いの喧嘩も絶えずノイローゼ一歩手前の妻はスマホ片手にベッドの上で倒れ込んだまま動けない。俺も脳味噌が腐りそうな中何とか腰を上げ「散歩でも行くか」と声をかけた。息子は一人でYouTubeを見ることに気を取られていたので娘と2人で家を出ることにした。このとき、既に時刻は20時過ぎ。5歳の娘を連れて出るには不適当だろう。俺も居酒屋に未就学児を連れてくるような親は基本的に軽蔑しているタイプの人間なので遅い時間に子供を連れ歩くことに抵抗はあるのだが、お互いの精神衛生上夜風に当たって少し歩くということが有効だと判断した。それくらい我が家の鬱屈とした空気は差し迫っていたとご理解頂きたい。外に出ると雨はほとんど上がっており、しっとりと濡れたアスファルトが街頭と月明りに照らされてぼんやり白く光っていた。打ち水効果で昼間の蒸し暑さもすっかり引いた中時々吹き抜ける夜風が頰に触れて心地良い。俺は娘の手を引いて、特に目的もなく歩き出した。商店街を抜け、国道沿いに歩き、大きな交差点に着いたら引き返そう。そう思いながら歩き出すと娘が「紫陽花だ!」と指を指した。家から2軒程隣のマンションのエントランス前に紫陽花が咲いていた。何度も通っていたはずなのに、全く気がつかなった。「紫陽花見つけたら1ポイントね」娘がそう言ってキョロキョロと周囲を見渡す。紫陽花は思ったよりもあちこと生えていて、娘は見つけるたびに「これで紫陽花ポイント2ポイントね」などと当初こそカウントしていたものの、そのうち「タンポポ見つけたからこれも1ポイントね」「あの家電気ついてないね。もう寝てる家見つけたから1ポイントね」と紫陽花には関係ないポイントをカウントし始め収拾がつかなくなった。商店街を抜けた先には大きめのブックオフ路面店があったはずだが、いつの間にかドラッグストアに変わっていた。この町は、ドラッグストアと接骨院と美容院で成り立っている。それ以外の店は住民の役に立たないと言わんばかりだ。俺は娘に「ごめん、ブックオフなくなってた」と謝り、引き返した。「こないだいい夢見たんだよ。プール入ってる夢。一度でいいから深いプール入りたいな」次第に強くなり始めた雨の中娘の手を引き歩く。家に着いたらすぐに娘と風呂に入ろう。紫陽花は全部で8箇所あった。