もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

スープ

ここ数日急に寒くなった。
とても寒い。

せっかくMacBook Airを買って気分一新、ブログを書こうと思ったのに、
MacBook Airは全身アルミだからなのか、さて、書こうかと起動させると
手首のあたりを載せる部分がキンキンに冷えていて、文字を打ちながらどんどん体が冷えてくる。

ファンがないので過熱してしまうこともないのだが、
あったかくなることもないので、いつでも冷え冷えのようだ。
クールである。

今日は事件があった。
息子がやけどをしてしまったのだ。
しかも原因はほぼ俺。

妻が仕事だったので、たまにはパパがチャーハンでもつくってやっか〜などといい父親ぶったのがいけなかった。

チャーハンはいい感じで出来上がり、息子に渡す。
息子がチャーハンをダイニングテーブルに置き、
俺は同時に作っていた丸鶏ガラスープを溶かして刻んだネギを入れただけのなんちゃって中華スープを温め直し、
カップによそって息子のもとへ持っていこうとした。
その瞬間。
テーブルについていると思っていた息子がなぜかすぐ俺のわきにいたのだ。
恐らくよそったカップのスープを受け取りに来ていたのだろう。
よく見ていなかった俺は振り向きざまのスピードのまま、すぐ近くの息子にぶつかり、そのまま火を入れたばかりのスープを
息子にぶちまけてしまった。

そこからはパニックだ。
俺も息子も半狂乱になりながら風呂に行きシャワーで冷水をかけた。ところが、気が動転した俺は息子の服を脱がせてしまった。
あとから調べたら、これはしてはいけないことだったらしい。
脱がせたことによって、皮膚が剥がれてしまった。息子の胸のあたりの皮膚ははがれててしまい、そのしたの皮膚が赤くなってしまっていた。
「痛い!」と泣き叫ぶ息子。俺は泣きそうになりながら必死に頭を回転させる。どうする、日曜日にどこがやっている?小児科で、救急でみてくれるところは近所ではどこだ。保険証をさがさなければ。はやくしないと皮膚がどんどんまずい状態になるのでは。
息子と俺の騒ぎを聞きつけやってきた妹がわけもわからず状況の異常さと兄の皮膚の様子に泣き叫び始め、室内は地獄のような有様だった。

結局確証もないまま、すぐ近くの緊急の外来をやっているはずの病院へいくことにした。
俺が6歳のとき、交通事故で運び込まれたのもこの病院だったので、行けばなんとかしてくれるのでは、という期待もあった。
ここで見てくれなくても、どこへ行けばいいかくらいは教えてもらえるのではないかと思ったのだ。
ここ数日コロナ患者の急増で医療が逼迫していることは重々承知しているつもりだったが、こうなったときには頼るしかない。
自分の不注意の結果とは言え、申し訳ない気持ちに息子への心配が勝っていた。

かぶりの服は皮膚にくっついて痛いだろうと思い、シャツを前を開けた状態で着せてその上からアウターを被せた。
コンロの火をとめたことだけを確認して妹も連れて飛び出す。
病院までは歩いて三分ほど。近い距離に病院があって、これほどありがたいことはなかった。
入り口には昼間の時間帯はコロナ対策で締切と書いてあり、緊急連絡先の電話番号が書いてある。
藁にもすがる気持ちで電話をかける。息子の皮膚の様子を見ながらコール音を聞く。
対応してくれた看護師にありのまま状況を伝える。自分の声があまりにも必死で、喋りながら第三者のような気持ちで少しは落ち着けと冷静な自分もいる。
一通り説明を聞いてくれた看護師が「少々お待ちください」と電話を切り、そのタイミングで妻に電話をすると、ちょうど電車に乗ってかえるところだったという。火傷をして病院に来ていることを伝えると、妻の様子が変わり、すぐに行くという。
そのタイミングで俺は自分がマスクもしないででてきてしまったことに気がつき、思わず口を覆った。

入り口が空いて看護師が検温をしてくれているタイミングで妻が病院に到着し、胸の火傷の状況を見てもらう。
「マスク忘れちゃって…」
というと、バッグから予備のマスクを出して「これ、私のだけど今日まだ使ってないから」
というので、ありがたく使わせてもらった。
息子は泣き止んだものの、痛みに顔を硬らせており、妹もまだ先程のショックからは立ち直りきれていない様子。
妻は俺たちを見て「またやけどしちゃったね…」といった。息子は2歳の時、自分でカップ麺をひっくり返して太ももをやけどしたことがあるのだ。

待合室の長椅子に座り、待つように言われる。
本来は受け付けていない時間帯の、それも専門ではない子供の外来なので、どれくらい待たされるかわからない。
もしかしたた数時間コースかもしれないと腹をくくり、妻に、保険証も持っていないし、家の戸締りも不安なので、一度家に帰って見てきてくれないか、と頼む。

すると、五分も経たずに名前を呼ばれる。
診察室に入ると医師が息子の様子をチェックし「ああ!これは痛いよね。水疱が破れちゃってるのか。消毒しましょう」と言い、
看護師が消毒と軟膏のようなものを塗ってくれ、そのままガーゼを貼って応急処置をてきぱきとしてくれる。
どうしてこんなことになったのか、を説明しているとき、それまで何も考えていなかったのに、急に「虐待していると思われたらどうしよう」と余計な考えが頭をよぎり、少しどもってしまう。息子の救急時に自分の保身のようなことを考えてしまい、自己嫌悪になる。
医師は特に気にした様子もなく「明日も来てね!」と言い、今日はそのまま帰って良い、という。今日は緊急なので、とりあえずの緊急処置なのだろう。ただ、このまま即何かしなくてはいけない、というほどのやけどではないことがわかり、ほっとすると同時にどっと疲れに襲われる。

待合室に戻り、妻と妹と会う。
医師の診断結果を告げ、そのまま今日は帰ることにする。
息子はすっかり静かになり、家に着くとそのまま誰に言われるでもなくベッドに入り、寝始めてしまった。
家の中は先程のパニック状態の残骸があちこちに散らばっており、コンロの上には冷えたチャーハンとスープがそれぞれフライパンと鍋にはいったまま。ぶちまけられたスープはフローリングで乾き始めており、刻んだネギがシンクにこびりついていた。
部屋を掃除していると妹がお腹がすいた、というので冷えたチャーハンをレンジで温めて出したが、少し食べて、いらない、と行って部屋に戻った。
俺も空腹を急に感じ、残ったチャーハンを食べた。こんなものつくらなければ、と鍋に残ったスープはそのまま流しに捨てた。

夕方息子は少し元気になったようで妹と遊びはじめ、普段通りのような喧嘩までするようになった。
痛みはないか、と聞くとだいぶ良いという。妻と今後はスイミングはしばらく休み、体育も内容によっては見学させてもらう方がいいという意見で一致する。連絡帳に妻が担任への連絡事項を書いてくれた。「親の不注意により、って書いていい?」と聞かれたので、問題ないというとそれを聞いていた息子が「いいよ、パパのせいじゃないし。僕が見てなかった」などと言い出すので、言葉に詰まってしまったが、親のせいで間違いない、と書いてもらう。

胸に貼られた大きいガーゼが痛々しいが、夜になる頃にはすっかり元気な様子で、走り回るようになり、顔にかからなくてよかった、と心から思った。