もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

ドブのにおいのする家

俺の家は低層階であり、かつこの辺り一帯が海抜0メートル地帯なので、
雨が降った後は下水が上がって排水溝からドブの匂いが上がってくる。

風呂上がりに妻になんかくせえな、と言われて俺は気がついた。
生まれ育った家に出戻りで暮らしている。
子供の頃からこの環境に慣れていたから、気が付きにくいのかもしれない。
もしかしたら会社でドブくせえジジイだと若い女性社員からは思われていたのかもしれない。
恥ずかしさ、惨めさに襲われる。

半地下、というワードが頭をよぎる。
映画のパラサイトで雨の日にトイレから下水が吹き出して慌てるシーンを思い出して暗い気持ちになる。
家中臭い。気が滅入る。
気圧のせいですよ。
そんなふうに若者のようにどうにもならない外的要因のせいにしてしまいたい。

風呂に入るとまた臭い。
ここも排水溝があるからしょうがない、匂いがあがってきてしまうのだろう。
それにしても、臭い。
完全に公衆便所の匂いがする。なんでだろう、と排水溝を覗き込むと茶色い物体が見える。
嘘だろ、と目を近づける。
うんこだ。

俺の前に入った息子が、この間も風呂場でうんこをした。

いや、正確にはケツにくっついていたうんこが取れて落ちていたようなのだが、
それにしては塊として巨大すぎるし、そうなるのは便秘気味のくせにトイレになかなかいきたがらずに我慢しているからだし、
何より絶対に自分でも気がつくだろ、という状況で知らんぷりしてそのままにしているからだし、
これで二度目、しかも昨日に引き続き、である。

怒りに任せて子供部屋に行き叱ってやろうと思ったが、当たり前のように息子は寝ていて、叩き起こしてまで叱れない自分。

フルチンのまま風呂を出てきてしまったが、そのまま風呂に戻って排水溝の蓋を開けてトイレットペーパーで掴んでトイレに流し、
シャワーで大量にお湯をかけて洗い流す。

公衆便所の匂いが立ち込める風呂場で体を洗っていると、泣きそうになってくる。

風呂を出る。
家中ドブの匂いがする。

俺は今日子供達に言った言葉を自分で思い出す。

こんなクソみたいな街、早く出た方がいい。自立して一人で早くいいところに住んだ方がいい。

本心だ。

言葉通り、クソの匂いのする家で、俺は今日も安っぽいペラペラの毛布にくるまって寝る。