もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

ベビーカー

地下鉄に乗っていた時、若い両親とベビーカーに乗った赤ん坊の3人家族がいた。

 

俺は少し離れた場所からそれを見ていた。

父親は、バゲットハットにサングラス、タンクトップに短パンサンダルでスマホをいじっており、まあお世辞にもなかなかまだ父親としての自覚に満ちているようには見えない。

 

地下鉄が駅に着き、ドアが開く。

ベビーカーはドアに面した場所に置かれていたから、当然出る人も入る人もベビーカーを避けることになる。

ドアが開いてしばらくしてからスマホから目を離した父親は、慌ててベビーカーにかかっているロックを外そうとガチャガチャやりはじめたが、よくわからないのか手間取る。

結局彼は先に降りてしまう。

母親がロックを外しベビーカーを下ろそうとする。

重いのか、段差で手間取る。

その脇を何人もが素通りして出たり入ったりする。

 

その時、手間取るベビーカーの車輪を、

ホーム側から誰かが持ち上げ、ベビーカーは車内から滑り降りて行った。

 

そのまま特に気にする風もなく車内に乗り込んできたのは、中東系の外国人男性だった。

 

何でもないようにそのまま席に座って本を読み始める。

 

別の駅で

俺が混み合う改札の手前でなかなか列に入らなかったとき、歩みを止めて手でお先にどうぞ、のジェスチャーをして譲ってくれたのも外国人男性だった。

 

そのときも、今回も

日本人と見られる周囲の客たちは、手伝うそぶりを見せないどころか、

そこにベビーカーがあるということな見えないようにしていた風に見えた。

そして、その間、俺自身も腰を上げることもなく、ただぼんやりとその光景を眺めていた。