もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

みんな怖いね。

雨の日は怖い。すれ違う人が皆手に凶器を持っているから。傘。あれだけ長く太く硬い金属の棒が束になった塊を握りしめて大勢の人がただでさえ視界が悪く高い湿度や身体が濡れたりと言った不快指数の高い中行き交う街中で事件にならない方が奇跡と言っていい。あなたの持つ傘の位置は子供の目の高さですとか広告が最近訴えるがそれだけじゃなく俺は誰もが持って平気で振り回す傘の切っ先が自分の目にいつか突き刺さることを何度も繰り返し想像して目を硬く瞑る。今年は雨が多くて毎日同じ日を繰り返しているような錯覚を覚える。水不足だったのはいつのことだろう。少しでもチャラにしたくて水道の蛇口をひねってしばらく出しっ放しにしたり例年より水に使用量を多めにしてみたが俺の家の水道料金が増えるだけで何一つ解決しない。数ヶ月ぶりに車を運転したらもう感覚を忘れかけていて俺は絶対に高齢者になったら車は運転しないと決めた。還暦前に免許返納したいくらいだ。今日も高齢者が若者を轢き殺す。若者が年寄を殺したというニュースは聞かない。今の若者は年寄を殺すほどの余裕も体力も無い。自分の人生を生きるだけで精一杯だ。この残酷な世界をサバイブするだけで彼等は充分消耗させられている。地元は民度が低く俺が子供の頃は家のすぐ前にコンビニとゲームセンターがあったので十代後半くらいの若者たちが深夜までたむろし騒いだり喧嘩したりといった怒号が響いたりして駅前の交番の巡査が来ては小競り合いをしたりしてたし、意味なくふかすバイクの群れが国道沿いを通り抜けたりとにかくうるさかった。今は町全体が静かに死んで行くようにひっそりと人の声は聞こえず時々日本語ではない男女の嬌声と、あとは救急車のサイレンだけだ。窓の外から雨音が聞こえる。今夜も遠くからサイレンが響く。